はじめに
本作は江戸川乱歩の短編の1つということで、1時間あればサラッと読める作品でしたが、
読めば読むほど受ける印象が変わる作品で非常に面白かったです。
自分の考察を書いているので未読の方はぜひ作品を一読した上でこちらを読んで意見を頂けると嬉しいです。
ちなみに自分は青空文庫で読みました。未読の方は下記リンクから是非。
また未読でwikiを見るのはやめたほうが良いです。壮大なネタバレくらいます(熱い経験談)。
※以下、読書感想文なのでネタバレ含みます。未読の方はご注意ください。
あらすじ
※本編読んでいる人はこの部分は飛ばして考察部分を読んでもらっても大丈夫です。
さて、最後まで読んだ上で本作を一言で表すと「変」。
全体を通して違和感がある作品でもあるが、読み終えた後の印象が大きく変わったかな。
作中にいろんな変があるので読む人によって色んな見え方があると思う。
本作品の主人公は京子(19歳)とその夫の門野で、この物語は京子の主観で進んでいくが、作品の冒頭は夫の門野が十年以上前に亡くなった事から始まり、京子と門野はお見合いから結婚に至った説明がされている。
夫の門野は良い家柄のイケメン坊っちゃんに対して京子は普通の家柄だった為、家族は玉の輿に乗りたたさで京子を説得し婚姻に至ったが、京子もまだ19歳、周りから聞く将来の夫の噂話や想像から結婚に不安を抱いていた。しかし、結婚してみると所詮は噂で門野は京子に優しく愛情を注ぎ、家族やお手伝いも快く迎えられ京子も門野に好意を抱くようになった。
この冒頭だけ聞くと良い話しだなと思えるが、ここから少しずつ本作の変態さが滲み出てくる。
結婚生活が半年過ぎた頃、京子は門野の愛が自分以外にも向いているいるんじゃないかと疑問を持ち、微かな不安がよぎり始めた。門野は深夜に長時間帰って来ない事があり、京子の女の勘が門野が良く足を運ぶ土蔵に目を向けさせたところ、門野と他の女の会話を聞いてしまう。
まだ19歳の京子にとってこの事実だけで浮気は嫉妬から復讐心を抱くのに十分な出来事だったはず。
京子は愛人の顔を見てやろうと何回も待ち伏せたが一向に蔵から出てくる事はなく、後ほど蔵の中でその理由を見つける。門野の愛人の正体は見た目10歳程度の人間よりも人間らしい人形だった。
そして京子はその人形をバラバラに壊してしまい、その夜門野はいつも通り土蔵に向かったが長時間帰って来ず、京子が土蔵を見に行ったところ人形と一緒に横たわる血まみれの門野の死体であった。
以上が物語のあらすじだ。
やるぴーの考察~タイトルの意味は2つある!~
ここからは自分の考察で冒頭に言った「変」とは門野の性癖の変態もあるが、どちらかと言うと「変わる」の意図が強い。
この物語を読み込むほど序盤と終盤で門野と京子の人物像が大きく変わってくる。
特に意識して欲しい事はタイトルの意味についてだ。
結論から言うとタイトルは2つの視点から全く別の意味を読み取る事ができる。
1つ目の意味としては、作中で「人でなしの恋、この世の外ほかの恋でございます。」と説明されている通りである。
これは門野と人形の恋について、京子の視点であれば理解できない恋を指しているように聞こえる為、「ひとでは無い物との恋」と捉える事ができる。
もう1つの意味として、「人でなし」とは、人情の欠落した人、酷薄な人、冷酷非道な人 の意味として捉える事もできる。
この物語は京子視点しかないが、門野の視点から読み取った時、タイトルの意味が全く別物に聞こえてくきて、人でなしとは京子の事を指しているようにも感じられた。
これからなぜそう感じたかを詳しく説明していく。
苦悩と葛藤と後悔をしてこその人間だ
門野は初めどこか人間味を感じられなかったが、愛人の正体が分かったところから少しずつ門野の人間臭さを感じるようになってきた。
門野は元々人付き合いが苦手な頃人形に魅せられてしまったが、門野もその性癖を変えようと京子を愛すよう努めるものの、人間の性癖は半年で変えられる程のものではなかったようだ。
しかし門野自身も京子への愛情が全く無いわけでもなく人形との会話の中で「京子に済まぬ」とも言っており、努力したものの変わる事ができず許しを請う苦悩が読み取れる。
この部分から、日々悩み、葛藤し、後悔を抱え懺悔する門野の人間らしさを感じた。
若さ故の過ちなのか元から持っている性質なのか
それとは逆に京子からは異常な執着と衝動性などのサイコパス性が表に出てくる。
特にその異常な内面が滲み出ている部分が2点あり、人形をバラバラに壊してた日の夜の土蔵に向かう門野を追い掛ける京子の心情として「小気味のよい様な、しかし又何となく悲しい様な、不思議な感情」と表されている。
これはバラバラになった人形を見た門野の反応を想像して楽しむかのような心境じゃないだろうか。
そして最も異常っぷりを読み取れた描写は、京子が蔵の梯子を登っている時、「ある予感にハッと胸を躍おどらせて、~ああ私の不吉な予感は適中したのでございました。」とある。
胸を踊らせる=期待・喜びなどで興奮し、心をわくわく、うきうきさせることの意味であり、京子のワクワクした予感は的中している事となる。
そして亡き夫と人形の死体を見た時、京子は声も涙もです立ち尽くすだけだった。
最後の一文「そして人形は、断末魔だんまつまの不気味な笑いを笑っているのでございました。」
果たして笑っていたのは人形なのか、それとも京子自身なのか…
つまり「人でなしの恋」とは京子視点では門野の人形愛の性癖指しているとも言えるし、
門野視点では京子の恋から生まれた嫉妬心と衝動性、残虐性を指しているのかと感じた。
以上がやるぴーの読書感想文です。
ちょっと自分の考察は少し想像が過ぎるところもあるかもしれません。
もし他にもいろんな考察があれば聞いてみたいので是非教えて下さい。
今後も読書感想文として続けていくので、今回面白いと感じたら次も読んで頂けると嬉しいです。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
またねー!
コメント
読んでみました。
やるぴーさんの感想、なるほどです。
この作品は面白いですね。
主観の京子さんの雰囲気が、前半と後半で変わって感じられるのも凄いです。
私が感じたのは、女性(それも初心な人)の唐突な縁談→不安と期待→夢のような待遇と理想を超えた夫の外見→舞い上がる女心→抱く初恋→愛へと変化→残念ながら感じる夫からの虚無感→自分という存在を感じてもらいたくての暴挙という流れです。
まあ、あるあるですが、男性に多い拘り(所謂趣味)がたまたま人形であり、初心な奥方が堪らず破壊したんですね。
私は女性なんで、彼女の心理には成る程ですが、やるぴーさん男性からすると「奥さん怖ぇー!破壊までするなよ!」と思われるんでしょう。
ひとでなしの恋、つまり人では無い物に恋した男と、人として(嫉妬に駆られ慈悲の心を)無くした女の恋ですかね。
長文失礼しました!
カエンさんコメントありがとうございます!
そうですね、素直に読み解くとカエンさんが書かれた通りの感想になるかと思います。
自分も初回は同じ感想で、京子には同情しましたね。
何回か読み返して、こういう捉え方もできるのかなと思って
人でなしの恋、人として(嫉妬に駆られ慈悲の心を)無くした女の恋。
確かに!と思える面白い表現ですね!
気づくの遅れてすみません。。。
また書くので読んで頂けると嬉しいです!
貴重なコメント頂きありがとうございました!